部下の工夫をリスクと見てしまう|任せてよい変更の範囲を決める

採用・評価・人材育成
Psychology Laws 編集部

部下から「この作業手順を少し変えると、二度手間を減らせそうです」と言われたとき、「勝手に変えられると困る」と答えて終わっていないでしょうか。確かに今の手順には、品質や顧客との約束、他部署への引き継ぎを守る役割があります。しかし、変更する内容を確かめずすべて禁止すると、部下がすでに担当している業務を改善する余地までなくしてしまいます。

部下の工夫を無条件に認める必要はありません。まず変更したい作業と守るべき条件を分け、本人が決められる範囲、関係者の承認が必要な範囲、正式な手続きなしには変えられない範囲を決めます。改善による利点だけでなく、変更に伴う危険と、現状を続ける場合の負担を比べることが出発点です。

部下の工夫が、上司には危険な変更に見えるのはなぜか

今までの方法を変えて問題が起きると、「変更しなければ大丈夫だった」と感じるかもしれません。一方、変更せずに続けている二重入力や確認待ちは、日常の作業として見過ごされることがあります。新しい方法にだけ厳しい基準を使っていないか、確かめる余地があります。

Spranca、Minsk、Baron(1991)は、行動する場合と何もしない場合の意図・動機・結果をそろえた場面を参加者に示し、判断の良し悪しや道徳性を評価してもらいました。同程度の害でも、自分から行動した場合の方が、何もしなかった場合より悪く評価される傾向が見られました。この評価の違いは「オミッション・バイアス」と呼ばれ、行動と不作為の評価差の解説でも扱っています。

ただし、この研究は仮想場面での責任や道徳性の判断が中心です。実際の業務変更を承認する上司を調べたものではありません。法律上の義務や情報漏えいの可能性など、変更によって現実に危険が増えるなら、慎重に判断することには理由があります。上司に特定の心理的偏りがあると決めつけないようにします。

上司が改善案を受け入れるかどうかには、案の伝わり方も関係します。Burris、Martins、Kimmons(2022)は、さまざまな組織の管理職を対象とする調査、病院での現場調査、3つの実験の計5研究で、改善の機会を示す発言、問題点を指摘する発言、両者を一度に含む発言を比較しました。改善と問題指摘を混ぜた発言は、それぞれを単独で示す場合より採用されにくく、単独の発言への反応も管理職が何を重視するかで違いました。研究者は、情報を理解しやすいかどうかが関わる可能性を示しています。

これは混ざった提案が危険だという結果ではなく、実際の改善の成功率を比較したものでもありません。部下の提案に「現状への不満」と「新しい案」の両方が含まれるときは、上司がそれぞれを切り分けて聞く方法を考えられます。

一方、仕事の進め方を自分で選べることにも意味があります。Theurerら(2018)は、1,180人の社員による9,440件の仮想的な仕事条件の評価を分析し、作業の順序、仕事の方法、仕事上の意思決定という3種類の裁量を比較しました。いずれの裁量も本人が見込む新しい取り組みの程度に正の関係があり、方法を選べる裁量の関係が特に大きく見られました。一方、上司の支援や組織の風土などが、その関係の強さを変えるという予想は支持されませんでした。

この実験で測ったのは、示された仕事条件のもとで本人が見込む行動であり、現場で実際に手順を変えた結果や事故率ではありません。「裁量は広いほど安全」という結果ではない点にも注意が必要です。

Slempら(2018)は職場の72研究、計32,870人をまとめ、部下の考えを聞き、選択の余地を尊重する上司の関わり方と、社員の自発的な仕事への意欲や好ましい行動との間に正の関連を確認しました。こちらは主に関連の分析であり、特定の変更を許可するだけで業績が上がるという因果関係を示していません。

これらを踏まえると、上司が確かめたいのは「部下の案だから危険か」ではなく、「何を変え、どの条件を守れば試せるか」です。

変更を認める前に、何を確かめるか

「手順を変えたい」だけでは、影響は分かりません。変更前と変更後の流れを部下と確認し、次の情報をそろえます。

  • 変更する箇所:自分の作業順序を変えるのか、他部署が使う書式や承認手順まで変えるのか。業務の目的と完成条件は同じか。
  • 影響する人と仕事:顧客、引き継ぎ先、関係部署にどのような影響があるか。変更を知らない人が困らないか。
  • 変更できない条件:安全、法令、個人情報、契約、承認権限、品質を守るために必須の確認は何か。
  • 期待できる利点と危険:短縮できそうな時間だけでなく、抜け漏れや手戻りの可能性をどう確かめるか。現在の方法にも問題があるか。
  • 戻せる範囲と判断者:影響を限定して試せるか。問題が見つかったときに誰が止め、元の方法へ戻すか。

同じ「工夫」でも、判断の仕方は異なります。次の区分は説明のための目安であり、実際の権限や社内規程を優先します。

変更の区分 例 必要な対応
本人の裁量で進められる工夫 必要な確認や成果物を変えず、自分の下書きの整理や作業順序を変える 成果や品質の条件を確認し、与えられた裁量の範囲なら本人が工夫する
関係者の承認が必要な変更 共同で使う受付表の項目、他部署への引き継ぎ、社内システムの設定を変える 影響範囲、試行方法、元へ戻す方法を示し、所定の担当者の承認を得る
本人だけでは変更できない事項 必須の安全確認、契約条件、個人情報の取扱い、法令・社内規程で定めた手順を省く 無断変更せず、専門部署や正式な権限者の審査・手続きを経る

必須の条件を変えられないことと、その手順の改善提案まで禁止することは別です。規程に改善の余地があるなら、本人が勝手に省くのではなく、変更権限のある部署に案を伝えます。逆に、本人のメモの作り方まで何でも上司が細かく決める必要があるのかは、仕事の条件に照らして考えます。

「現状を変えない」ことも一つの選択です。現状維持による手戻り、待ち時間、作業の正確さを、変更案と同じ期間・業務量で確かめます。ただし、今の非効率を減らす目的で、重要な確認を省くことを正当化してはいけません。

部下の改善案を、承認と試行へどうつなげるか

以下は説明用の仮の例です。顧客からの問い合わせを受ける部署で、社員が「受付表に似た内容を二度入力しているので、一つにまとめたい」と提案しました。上司は「必要な引き継ぎ情報が消えるのでは」と心配しています。調べると、片方の欄は別部署が緊急対応の要否を判断する際に使っていました。

この場合、正式な受付表の項目を本人だけの判断で削除するのは適切ではありません。一方、代案を考え、必要な情報を残した入力例を作るところまで止める必要があるとは限りません。次のような進め方が考えられます。

  1. 変更点と上司の懸念を具体的にする。「どの入力が二重ですか」「誰が使う情報ですか」と尋ねます。上司も「心配だ」ではなく「緊急対応に必要な情報が欠ける可能性」を問題として示します。
  2. 変えてよいものと、残す条件を合意する。入力負担を減らすことは目的にできますが、必要な顧客情報の引き継ぎと緊急判断に使う項目は残します。関係部署の使い方も確認します。
  3. 承認前の準備と、承認後の変更を分ける。部下には新しい入力例や業務の流れを考えてもらいます。正式な共有表は勝手に変更せず、権限者の承認と関係部署の確認ができてから、影響を限定した試行を検討します。
  4. 変更の利点と問題を一緒に測る。現行と試行案を比べ、入力時間、引き継ぎ漏れ、再確認、緊急対応への影響を確かめます。入力が早くなっても、必要な情報が欠けるなら採用しない理由になります。
  5. 中止・修正・採用の判断を伝える。問題を発見したときに試行を止め、元に戻す担当者を事前に決めます。確認した結果から、続ける・修正する・見送るを決め、その理由と次に任せる範囲を部下へ説明します。

上司は例えば、次のように伝えられます。

「二重入力の負担は減らしたいですね。ただ、片方の欄は別部署の緊急判断に使われています。正式な受付表は関係部署の確認が済むまで変えないでください。まず必要な情報を残した案を作ってもらえますか。確認が取れたら、安全に小さく試せるか一緒に決めましょう」

この会話や手順は、研究でそのまま効果が確かめられた方法ではなく、研究を参考にした実務上の提案です。実際の許可範囲は社内規程や契約に従います。試行で期待した効果が出なかった場合も、約束した条件を守って検証した行動と、結果として改善できなかったことは分けて振り返れます。

部下の工夫を認めることと、仕事の品質を守ることは両立できます。何を変えたいか、守るべき条件は何か、誰の承認が必要か、どの結果で判断するかを確認することが、上司にも部下にも分かる変更の範囲を作る出発点です。

参考文献・出典

  • Spranca, M., Minsk, E., & Baron, J.(1991). Omission and Commission in Judgment and Choice. Journal of Experimental Social Psychology, 27(1), 76–105. ― 行動と不作為の意図・動機・結果をそろえた場面での判断・道徳性の評価差。出版社の原著要旨を確認。
  • Burris, E. R., Martins, L. L., & Kimmons, Y.(2022). Mixed Messages: Why Managers (Do Not) Endorse Employee Voice. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 172, 104185. ― 管理職の調査、病院での調査、3実験における提案の種類と採用の関係。出版社の原著要旨と研究概要を確認。
  • Theurer, C. P., Tumasjan, A., & Welpe, I. M.(2018). Contextual Work Design and Employee Innovative Work Behavior: When Does Autonomy Matter? PLOS ONE, 13(10), e0204089. ― 1,180人の社員による9,440件の仮想仕事条件の評価で、裁量の種類と本人が見込む新しい行動を比較。原著本文の方法・結果を確認。
  • Slemp, G. R., Kern, M. L., Patrick, K. J., & Ryan, R. M.(2018). Leader Autonomy Support in the Workplace: A Meta-Analytic Review. Motivation and Emotion, 42, 706–724. ― 上司の自律性への支援と意欲・行動の関連を、72研究、32,870人のデータで検討。原著本文を確認。